第67号(2009年2月)

◆ 目次 ◆
1.1月30日(金)、沖縄で
「薩摩の琉球支配から400年・日本国の琉球処分130年を問う会」が結成される。


2.1月30日(金)、大阪で
「高裁判決の意義―出版・表現の自由に関わって」の学習会が開かれる。


3.1月30日(金)、沖縄タイムスで
「教科書検定 再訂正申請は断念に追い込まれる」と報じられる。


補. 「第1回沖縄大好き検定」の合格率は?


1.1月30日(金)、沖縄で
「薩摩の琉球支配から400年・日本国の琉球処分130年を問う会」が結成される。

 今年2009年は、1609年の島津侵攻から400年、1879年の琉球処分から130年の節目の年です。この時「薩摩の琉球支配から400年・日本国の琉球処分130年を問う会」(以下、「問う会」)が、1月30日(金)に結成されました。
 「問う会」は「唐ぬ世から大和ぬ世、大和ぬ世からアメリカ世、アメリカ世からまた大和ぬ世、いちぬ世になりば琉球ぬ世」と詠んで、次のように呼びかけています。
 「今年2009年は、1609年の薩摩による琉球侵略から400年にあたります。ヤマト(日本)による琉球弧(奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島)の植民地支配の先駆けとなったこの痛恨の歴史事実を風化させることなく、この機会に改めて掘り返すことにより、琉球人としての自己確認を鮮明にしたいと考えています。この自覚に立って、1879年に始まり、今なお続いているヤマト国家による琉球処分にもメスをいれなければなりません。この際『琉球弧が日本国の中に組み込まれていること。また沖縄県と鹿児島県奄美諸島に分断されていること』が問答無用の常識とされている現実を、疑ってみる必要があるのではないでしょうか。そうすれば、その深みから何か“本物”が見えてくるのではないかと期待しているわけです。琉球人としての自尊心を大きく失い、自治・自立さえ危なくなっている今日の琉球の現実を克服するために、今年を契機に、適切な行動を展開していきたい」と。


結成集会に200名が参加(「問う会」HPより)

 「問う会」の規約は、
 (目的)「(前略)節目の年に当たる2009年に琉球人としての自決権を確立する為にこの会を結成し、これを機会に、失われたものを取り戻し、自立していく自覚的な行動を起こします。ひいてはアジア、世界の平和と共生に寄与することを目指します」(第2条)
 (役員)「(前略)役員は原則として琉球人とします」(第7条)
 (その他)「『使用語等の表記』については『琉球人』に統一し、年月日は『国際暦』を使用します」(第15条)
 などとなっています。
 後述するように、この日「大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会」の学習会と重なり、ぼくは「問う会」の結成集会に参加できなかったのですが、討論の中で、第15条にある「『琉球人』とは琉球弧で生まれ育った人、あるいは琉球人としてのアイデンティティを持つ人」と定義されたとのことです。
 そして(事業)は、
 (1)毎年3月7日、3月27日を軸にシンポジウム、講演会、激論会などを開催します。
 (2)奄美諸島から与那国までの琉球弧住民らと連携し活動します。
 (3)国連、日本国、沖縄県、鹿児島県へ要請行動を行います。
 (4)資料集・論文集の出版、及び広報活動を行います(第3条)、としています。
 共同代表には、平良 修(牧師)、金城 実(彫刻家)、高里鈴代(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会 西原教会員)、海勢頭豊(ミュージシャン)、当山 栄(平和・市民連絡会事務局長)、薗 博明(環境ネットワーク奄美代表。薗さんについては、奄美大島で開かれた「ゆいまーる琉球の自治」を報じた『沖縄通信』53号(2007年12月)に書いています)、石垣金星(西表島・祖納公民館館長。金星さんについては、「ゆいまーる琉球の自治 in 西表島」を報じた『沖縄通信』65号(2008年12月)に書いています)各氏ら14名の方が就任されました。

 「問う会」のHPは下記の通りです。是非アクセスして下さい。

 http://www.ntt-i.net/ryukyu/index.html

 ぼくは「問う会」の今後の発展に多いに期待しています。ここから新しい運動と思潮が登場することを願います。次回は3月29日(日)午後1時から6時までの長丁場で「薩摩侵略400年シンポジウム」が企画されています。

 

 

2.1月30日(金)、大阪で
「高裁判決の意義―出版・表現の自由に関わって」の学習会が開かれる。

 大江・岩波沖縄戦裁判支援連絡会は、最高裁での公判を前に1月30日(金)午後6時30分よりエルおおさかで、東京より近藤卓史弁護士を招いて学習会を開きました。


主催者を代表して挨拶する岩高 澄牧師

 学習会は、支援連絡会の代表世話人である岩高 澄牧師が主催者挨拶をおこない、引き続いて、近藤弁護士が「高裁判決の意義―出版・表現の自由に関わって―」と題して、概ね次のように話されました。
 最高裁では事実認定はしない。それは地裁、高裁段階で終わっている。最高裁は法律の解釈に誤りがないかどうかを判断するところだ。名誉毀損罪は刑法にもある。第230条に「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」。但し、「真実であることの証明があったときは、これを罰しない」(第230条の2)とある。今回の大江・岩波沖縄戦裁判は刑事裁判ではなく民事裁判である。
 名誉毀損を求める梅澤の訴えが認められないなら、敬愛追慕の情侵害を求める赤松の訴えは認められるわけがない、という関係にある。すなわち梅澤は、表現によって名誉を毀損されたことを主張、立証しなければならない。一方、表現者側(=大江・岩波側)は、@公共の利害に関する事実であること、Aもっぱら公益を図る目的であること、B摘示事項が真実か、真実と信ずるについて相当の理由があること、を主張、立証しなければならない。
 赤松の敬愛追慕の情侵害については、名誉毀損と異なり、被害を受けた側は、@摘示事項が虚偽であること、A敬愛追慕の情を受忍し難い程度に害したこと、を主張、立証しなければならない(筆者注:裁判手法という観点からすれば、こちら側は梅澤の訴えに理由はないという点に集中すればよい。逆に原告側は梅澤の訴えが仮に認められたとしても赤松の訴えが認められるとは限らない、ということである)。

 
講演する近藤卓史弁護士

 同様に、名誉毀損が認められないなら、出版差し止めの訴えは認められるわけがない、という関係にある。すなわち差し止めを求める側が、表現によって名誉を毀損されたことを主張、立証するだけでなく、@表現内容が真実でないこと(または、もっぱら公益を図る目的のものではないこと)が明白であること、かつA被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあること、を主張、立証しなければならない(筆者注:裁判手法という観点からすれば、こちら側は名誉毀損に当たらないという点に集中すればよい。逆に原告側は名誉毀損が仮に認められたとしても出版差し止めの訴えが認められるとは限らない、ということである)。
 原告は、最高裁において何を主張してくるのかを予想すると…。
 地裁は真実か真実相当性があったと判断している。すなわち、こうである。
 (地裁判決)「本件各書籍の各発行時及び本訴口頭弁論終結時において、被告らが、前記事実を真実であると信じるについての相当の理由があったものと認められ、被告らによる原告に対する名誉毀損は成立せず、したがって、その余の点について判断するまでもなく、これを前提とする損害賠償はもとより、各書籍の出版等の差し止め請求もまた理由がない」と。
 ところが原告側は高裁は判断していないではないか、と主張してくるだろう。高裁は発刊時には真実か真実相当性があったと判断しているが、新しい判断を示したのである。すなわち、こうである。
 (高裁判決)「本件のように高度な公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的でなされた記述について、発刊当時はその記述に真実性又は真実相当性が認められ、当該記述を含む書籍の出版は不法行為に当たらないものとして長年にわたって版を重ねてきたところ、新しい資料の出現によりその真実性が覆り、あるいは真実相当性の判断が揺らいだというような場合に、直ちにそれだけで、当該記述を改めない限りその書籍の出版を継続することが違法になると解することは相当ではない。@新たな資料等により当該記述の内容が真実でないことが明白になり、A当該記述を含む書籍の発行により名誉を侵害された者がその後も重大な不利益を受け続けているなどの事情があり、B当該書籍をそのままの形で出版し続けることが出版の自由等との関係などを考え合わせても社会的な許容の限度を超えると判断される場合に限って不法行為の成立が認められると解するべきである」と。
 この新しい判断について、最高裁の見解はまだないわけである。
要旨、以上のように近藤弁護士は話されました。

 
会場風景

 質疑の時間に移り、ぼくは「最高裁段階での審理の進行を具体的にイメージできないので教えてもらいたい」と問いました。近藤弁護士は次のように述べられました。
 最高裁は小法廷が3つあり、5人ずつで構成されている。このどこかの小法廷に事件が配属される(筆者注:その後、第一小法廷に受理されたということが判明した)。大法廷は15人(3×5人)で構成される。最高裁の裁定には、
 @決定(これは上告理由に当たらないというもので、ある日突然ハガキで通知が来る)
 A判決(1週間ほど前に「判決を言い渡す」との連絡が来る)
 B弁論を開くので、上告理由書に対する反論を出せと言ってくるが、この場合は反論を出したところで、最高裁の腹(=結論)は既に固まっている。
 C破棄差し戻し(最高裁は破棄自判は中々やらない)
 D大法廷を開くのは、重要な憲法判断や過去の最高裁判断を変更する場合に限られ、通常年に1回程度開かれるかどうかである。 
 高裁は新しい判断を示したと先ほど述べたが、最高裁がこれは従前の法律の解釈の枠内だと判断すれば@かAだろう。だから、我々とすれば、@かAが望ましい、と答えられました。
 地裁や高裁の時と違って、最高裁では大衆的な公判闘争というものを作り難いです。ですから一人でも多くの方に署名の協力を求めて、最高裁に集中することが当面必要でしょう。

3.1月30日(金)、沖縄タイムスで
「教科書検定 再訂正申請は断念に追い込まれる」と報じられる。

 ところで、集会が開かれた1月30日の『沖縄タイムス』朝刊は、1面トップ記事で「執筆者ら訂正申請断念/『集団自決』修正/教科書会社が拒否」と報じました。執筆者らは高校日本史教科書で「日本軍の強制」の記述を復活させるため、教科書会社と協議してきた再訂正申請を断念したのです。その背景には文部科学省の意向に逆らえない出版社の姿勢があります。社会面は「文科省圧力に憤り/訂正申請断念/執筆者 出版社を批判『教科書の責任放棄』」と、「厚い壁『真実』遠く/検定意見を崩せず」との2面ぶち抜き見出しです。
 検定意見の根拠として著書が引用された林 博史関東学院大学教授は「司法の場を含め軍の強制は明らかに示されており、訂正申請の根拠は十分にある。(文科省が)検定で文献の読み方を歪曲しているのは明らか。教科書会社は、社会的責任を放棄しており、きわめて遺憾。文科省に対し及び腰になっている」(同日付『沖縄タイムス』)と、教科書会社を強く批判しています。同紙は「今後は新学習指導要領に基づく教科書で、軍の強制性を復活させる取り組みとなる。近年の右傾化の風潮を反映して教科書書き換えの動きが活発化する懸念もある」と指摘しています。
 新聞題字の下欄に設けられている、同日付夕刊『寸評寸描』―ここは26字(以内)でまとめなければならない―は、「文科省に白旗か、それとも…『旧軍の強制』復活の道険し」、「必要なのは『事実』の積み重ね。研究重ね旧軍の所業暴け」、「検定制度の壁破る鍵は、県民の思い。怯まず弛まず前進を」と書き、5項目中3項目までが教科書検定問題について書いています。
 そうすると、今度は2月3日付『沖縄タイムス』朝刊に「教科書検定/『沖縄条項』設けず/政府、答弁書を決定」と報道されました。沖縄戦の被害などについて教科書記述を配慮する、と検定方針に明記する「沖縄条項」は、2007年9月29日の県民大会の後、実行委員会が文科省に要望した4項目の一つでした。「検定意見の撤回」と同様、またも文科省は拒絶したのです。
 「大江・岩波沖縄戦裁判の勝利と検定意見の撤回(と記述の回復)は車の両輪だ」と、ぼくはずーと主張してきましたが、今だ実現を見るに至っていないのです。

 

補. 「第1回沖縄大好き検定」の合格率は?

 沖縄県人会兵庫県本部の機関紙『榕樹』327号(2009年2月7日発行)に「第1回沖縄大好き検定/大島支部の上間支部長が3級に合格」との見出しで、次のような興味深い記事が載っています。
 「昨年10月に沖縄、東京、大阪で実施された『第1回沖縄大好き検定』の結果が、このほど受験者に通知され、大島支部の上間實支部長が3級に合格しました。
同検定事務局によると、受験者は2、3級(1級はなし)合わせて1,035人。2級の合格者はわずか6人。3級の合格者は約150人とかなりの難関でした。(後略)」と。
 ぼくは「無事合格することができました。正直、嬉しかったです」と3級に合格したことを『沖縄通信』65号(2008年12月)で報告しましたが、合格率がどの程度だったのかは、沖縄大好き検定のHPにも載っていないので分からなかったのです。県人会のよしみで事務局に問い合わされたのだと推測できます。ここから3級の合格率は14.5%だったことが判明します。ぼくのように3級だけ受験した者、2級と3級を同時に受験した者、2級だけ受験した者と3通りありますので、厳密には14.5%とは異なるでしょうが、この数字はまあ近似値といって差し支えないでしょう。『榕樹』からも読みとれますが、沖縄県人会兵庫県本部でも合格されたのはこの上間さんお一人ではなかったかと思います。
 この合格率を見ても、よく合格できたものだなぁと改めて思います。第1回が相当難しかったので今年は少し易くなるのではと予想します。がんばって今年は2級に挑戦してみようかとも思います。でも合格は難しいでしょうね。


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