☆西浜さんのプロフィール☆
1944年生。1989年12月受洗。
2005年3月琉球大学大学院修士課程修了。
2009年3月大阪市立大学大学院博士課程単位取得退学。
現在、大阪市大人権問題研究センター会員ならびに共生社会研究会所属。
日本キリスト教団大阪教区沖縄交流・連帯委員会委員長


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第93 号(2012年1月)

 お気付きの方も多いと思いますが、ぼくは、琉球大学大学院に進んだ2003年5月より『沖縄通信』を月刊で連載してきましたが、 これが昨年7月の第92号で停まっています。
 実は、昨年の9月20日(火)〜26日(月)、10月19日(水)〜27日(木)、11月14日(月)〜19日(土)、12月4 日(日)〜10日(土)という具合に、昨年9月より日本キリスト教団東北教区被災者支援センター・エマオを通して、月1回のペース で仙台と石巻にボランティアに行っています。今月1月は22日(日)〜28日(土)に行きます。ひと月約4週の内、1週間東北に行 き、極端に言えば残り3週間で体力の回復をはかるという生活サイクルを続けていて、『沖縄通信』の執筆にかかれていません。でも、 東北では毎回、新しい出会いと感動を受けています。
 ところが、沖縄はこの間も継続して蹂躙され続けているのです。


1.年末、仕事納めの闇夜に、沖縄防衛局が「環境影響評価書」を県庁に投げ込む。

 年末の、それも官公庁の仕事納めの、2011年12月28日(水)午前4時という闇夜に、沖縄防衛局は「環境影響評価書」を沖縄 県庁に投げ込むかのように搬入しました。まさに闇討ちです。これは名護市辺野古沖を埋め立てて基地・滑走路をつくるための環境影響 評価の最終段階の手続きです。沖縄県議会や多くの市町村議会での反対決議を無視しての搬入は、異常と言わざるを得ません。民主的な コミュニケーションをことさら大切にせねばならない環境影響評価(アセスメント)法の趣旨を完全に踏みにじった、あまりにも姑息な やり方です。もはや政府には事業を進める正当性はありません。


2011年11月12日(土)河合町で講演された新崎盛暉さん

 実際今まで、日本(=ヤマトゥ)政府が沖縄に対してやってきたことは闇討ちばかりでした。
○ 2005年3月16日 辺野古ボーリング調査で、ジュゴンへの配慮として「作業は日の出1時間後に開始する」との取り決めを破 り、未明に海底掘削台船を移動
○ 同年4月26日 未明に作業船を出港させ、ボーリング調査用の単管足場に進入防止ネットを設置(『沖縄通信 第25号』200 5年5月参照)
○ 2007年5月18日 海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」を辺野古沖に派遣し、未明にサンゴ産卵調査の作業に着手(『沖縄通信  第47号』2007年6月参照) ○ 同年7月3日 東村・高江のヘリパッド移設作業で、午前5時半ごろ、工事用進入ゲートに鉄製柵の設置作業に着手、という次第で す。
 日本(=ヤマトゥ)政府は「沖縄県の負担軽減のため」と、口が開けばオウムのように繰り返しますが、現在進行しているのは負担軽 減とは裏腹に、まぎれもない基地の強化ではありませんか?
 そしてまた、「信頼回復」と言いますが、これまで日本(=ヤマトゥ)政府が沖縄の信頼に応えたことがあったでしょうか。
 仲井真・沖縄県知事はこの「環境影響評価書」の受け取りを拒否しなかったので、埋め立て部分以外については2月20日(月)まで に、埋め立て部分については3月27日(火)までに、それぞれ知事意見を提出することになります。


2.ぼくは、かつてこれ以上の沖縄に対する差別言辞を聞いたことがない、田中 聰発言。

 この闇討ちのちょうど1ヶ月前の11月28日(月)、田中 聡・沖縄防衛局長(当時)による差別言辞がありました。ぼくは、かつ てこれ以上の沖縄に対する差別言辞を知りません。
 「防衛大臣は環境影響評価書を『年内に提出する』ではなく『年内提出の準備を進めている』とあいまいに言っているのはなぜか」 と聞かれた田中前局長は、完オフ(完全オフレコ)と称して「犯すときに、『これから犯しますよ』と言うか」との主旨の発言をしまし た。「環境影響評価書」の提出は、まさに沖縄の民意が犯されたに等しいのです。それにとどまらず、新聞記者の「沖縄は66年前の戦 争で、軍がいたのに被害を受けた」との問いに「400年前の薩摩藩の侵攻の時は、琉球に軍がいなかったから攻められた。『基地のな い、平和な島』はあり得ない。沖縄が弱いからだ」とも述べました。さらに、1995年の少女レイプ事件に関して、兵士に買春をすす めた米軍司令官の発言(米兵は少女をレイプするためにレンタカーを借りたが、そのおカネがあれば買春すればいいのだ)を肯定し、「 政治家は分からないが、(防衛省の)審議官級の間では、来年(2012年)夏までに米軍普天間飛行場の移設問題で具体的進展がなけ れば辺野古移設はやめる話になっている。普天間は、何もなかったかのようにそのまま残る」と述べました。
 これらの言辞には、植民地的状況下で、支配者が持つ意識の本質が集約されています。これらは沖縄に対する暴力的な支配を正当化す る論理であり、日本(=ヤマトゥ)政府の沖縄に対する基本姿勢から生み出されたものです。それは、沖縄が言うことを聞かなければ、 最後は力づくで屈服させ、強権的に支配するというものです。
 11月29日付『毎日新聞』(電子版)によれば、田中前局長は1996年7月から約2年間、那覇防衛施設局(当時)の施設企画課 長をして沖縄に赴任しています。この間に、名護市で海上ヘリポートをめぐる市民投票が行われました(1997年12月21日)。田 中前局長は市民投票に露骨に介入し、責任者として受け入れ賛成の集票活動を行っていた人物なのです。


近畿中部防衛局との交渉

 この発言を受けて、「辺野古に基地を絶対つくらせない大阪行動」は、12月19日(月)近畿中部防衛局に抗議の申し入れを行いました。ぼくも参加しました。以下が、その時に提出した「申し入れ書」です。

 田中聡元沖縄防衛局長のレイプ発言に抗議し、辺野古・高江への米軍基地建設作業の即時中止及び計画の白紙撤回をもとめる要請文
 さる11月28日夜、米軍普天間飛行場の「移設」問題における、辺野古への新基地建設計画に係る環境影響評価の「評価書」の年内 提出について、一川保夫防衛大臣が「年内に提出できる準備をしている」との表現にとどめ、年内提出実施の明言を避けている理由を質 されたのに対し、那覇市の居酒屋における報道陣との非公式の懇談会の席で、田中聡元沖縄防衛局長が「犯すときに『これから犯します よ』と言いますか」という要旨の発言をしたという問題について以下、要請します。
 私たちは辺野古に基地を絶対つくらせないという思いで大阪で市民活動を行っている者です。私たちがその活動の過程で学んだことが あります。沖縄に米軍基地を押しつけている原因は、なによりも自分の中でそれを支えてきた現実にこそあるのではないかという反省で す。今回、私たちが要請に踏み切ったのは、たんに田中元沖縄防衛局長の発言を糾弾する目的ではなく、その発言の背景にあるものをと もに反省する機会にしたいという思いがあるからです。
 田中元局長は「評価書」提出という「行政手続き」を性暴力にたとえました。この発言には、発言自体の「適切/不適切」の線を越えて 、考えなければならない問題があります。「評価書」の提出自体が暴力行為であったという認識です。この認識は、これまで日本政府が 沖縄防衛局を通して辺野古・高江に対して行ってきた基地建設の進め方を如実に反映したものと言わざるをえません。
 辺野古・高江で現在も行われている基地建設作業は、多くの住民の声を一方的に威嚇・制圧する中で行われてきました。たとえば辺野 古で住民の阻止行動に対して自衛隊を投入する、高江で座り込み行動をする住民を一方的に告訴し裁判所での係争事件に付すなど、政府 は住民に対して一貫して暴力を辞さない態度を執ってきました。基地建設は住民に対する暴力なしには為しえないことを示しているので はないでしょうか。
 また田中元局長の性暴力発言を批判する多くの人が、「沖縄、女性に対する蔑視」であると指摘しています。実際、田中元局長が更迭 ・停職処分にされた理由もそうでした。日本と沖縄の関係を「男女関係」に見立て、「性暴力を受けるのは女性」と前提した上で、女を 犯す男は「人権感覚の欠如」した許されない存在だとする考えです。しかしこの更迭理由では、女を犯す男は許されないという一般的禁 忌を倫理的高みから表現したにすぎません。男性が女性という「弱者」を守るという思想には、あらかじめ女性を性暴力の対象として固 定し、男性自身は性暴力の対象から逃れられる立場にあるということが前提になっています。こうした男性中心の考えが性暴力を女性に 対して意識せずに振るう温床となっており、日本と沖縄の関係を日本中心、あらかじめ沖縄を基地を押しつけることのできる対象として 固定する関係を維持し、自分は基地押しつけ責任から逃れられる立場にあるという無意識の前提をこしらえてしまっているのではないで しょうか。
 こうして田中元局長の発言は多く私たち自身がふだん気付くことなく過ごしている現実を表現したものと思われますが、一方でこの「 発言」をめぐる議論が独り歩きしている現状にも私たちが反省すべき現実が横たわっているように思われます。
 田中元局長発言が、「評価書」の「年内提出」方針に影響するものと捉え、「沖縄との信頼関係」を破壊し、「日米合意」の進捗を遅 らせる原因となったとする論調が政府に見られます。政府はそれらすべての責任を田中元局長の発言に帰することで切り分けて「別問題」 とし、あくまで「年内提出」を強行する姿勢であるようです。また日米合同委員会で日米地位協定の「運用改善」の承認を急きょ取り付 けることで、「沖縄との信頼関係」の回復の具とする意図のようです。さらに米上院議会でのグアム移転予算全額削除の議決、また米国 オバマ大統領が発表したオーストラリアへの海兵隊駐留方針も、普天間移設問題の進捗には影響しないというリーク情報を米国議員から 引き出すことによって普天間問題に関する疑義が出ないようにする予防線を張っています。
 まるで田中元局長発言の「騒動」をいいことに、火事場泥棒のように事態を全て沖縄に基地建設ありきの方向で帰一させているような ものです。
 私たちはその逐一の真相を理解しかねますが、田中元局長の発言によって政府、防衛省、防衛局が負うべき説明責任を回避していると しか見えないのです。田中元局長の発言に対する「謝罪」や「処分」が政府によって演じられましたが、いったい何に対する、誰に対す るものだったのでしょうか。謝罪、処分はその問題の原因となったものが解決されてはじめて成立するものだと思います。謝罪をしたこ とで「別問題」としてよいと判断する側に政府がいてはならないはずです。
 あらためて要請します。
一、田中聡元沖縄防衛局長のレイプ発言に抗議します。
一、辺野古・高江への米軍基地建設作業の即時中止及び計画の白紙撤回をもとめます。
 以上が、申し入れ書です。


防衛局の担当者

 数知れない、日本(=ヤマトゥ)政府による沖縄への蹂躙を決して許すことなく、正念場の今年がんばらねば!と思います。そんな気 持ちから、ぼくは今年2012年の年賀状に、次のように記しました。
 「がんばろう!日本」から「変えよう!日本」へ
 沖縄の御万人(ウマンチュ)と東北の被災者とともに歩みます。



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