☆西浜さんのプロフィール☆
1944年生。1989年12月受洗。
2005年3月琉球大学大学院修士課程修了。
2009年3月大阪市立大学大学院博士課程単位取得退学。
現在、大阪市大人権問題研究センター会員ならびに共生社会研究会所属。
日本キリスト教団大阪教区沖縄交流・連帯委員会書記


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第109 号(2015年10月)

『戦後年、戦後ゼロ年、戦前ゼロ年』その2

2.琉球の島々文化連絡会とは何か。
 沖縄のアイデンティティ、自己決定権について考察する時、見落としてはならないもう一つの大きな出来事があります。 それが島ぐるみ会議の結成から3ヶ月後の2014年10月19日に設立された「琉球の島々文化連絡会」(以下、「文化連絡会」 と略す)です。呼びかけ人は安里英子、安里進、上原誠勇、高良鉄美、桃原一彦、豊見山和美、豊見山和行、友知政樹、 仲地博、比嘉豊光の10名で、そのうち安里英子、高良鉄美、仲地博の3名は島ぐるみ会議の発起人にも名を連ねています。 安里英子はフリーランス・ライター、高良鉄美は琉球大学教授、仲地博は沖縄大学学長です。
 政治・社会運動を担おうとする島ぐるみ会議とは異なり、この文化連絡会は文化活動の領域を担うことを本旨としてい るので、大規模な設立会を持つ必要もなく、100名ほどが参加し沖縄県立博物館・美術館講座室で開かれました。
 「設立趣意書」は以下の通りです。


2015年4月4日 第556回大阪行動での筆者

  私たちは「琉球の島々文化連絡会」を設立し、「琉球・沖縄文化プロジェクト<保全・回復・創造・継承>」を推進 します。本プロジェクトは、本会の設立趣旨のもと、文化活動の領域を問わずあるいは領域横断的に、研究発表、展示、 上映上演、講演、シンポジウムを展開するものです。
  いま政治的局面では、植民地差別を温存する同化政策によって絶え間なく分断されてきた琉球・沖縄の現実を乗り越 えようと、新しい動きが模索されています。私たちも、米軍普天間飛行場の辺野古強行移設を、琉球・沖縄の歴史・文化 ・自然の固有性を否定し破壊するものであると認識しています。戦後69年間継続する軍事植民地状態から脱して琉球・沖 縄の精神的自由を回復するにおいて、辺野古強行移設とは重要な文化問題でもあります。
  真の社会変革を目指すとき、政治の力だけでなく、文化の力も重要な役割を果たします。政治と文化、この両輪の緊 張と協働が私たちを新しい世界へ導くものであることは、植民地状態から自己決定権を獲得してきた多くの国々の歴史が 示しています。
  私たちの島々は、豊かな自然に育まれた知性と感性をもとに、固有の文化を営む歴史を歩んできました。この誇り高 い島々に対して、近代国家の権力者たちは政治的暴力や植民地差別を強いてきましたが、島々はいまなおそれらに屈する ことはありません。この不屈の力の源泉は、島々の文化的アイデンティティにあると言えます。時代がどのように移り変 わろうとも、次の世代のために、この泉をからすことなく守り伝えなければならないでしょう。
  私たちは、島々の文化的発展の自由を自らの手で再構築する重要性に着目します。米軍基地や歴史教科書をめぐって 沖縄の意志を主張する県民大会や、母語(しまくとぅばあるいは琉球諸語)復興運動に見られるアイデンティティ意識の 高まり、文化の基盤である自然環境への関心の増大は、私たちが新たな文化的地平に到達したことを示すものだと考える からです。
  この連絡会は、文化に関わる人々が、それぞれの領域で琉球・沖縄アイデンティティの泉を確認し、島々の多様性を 認め合いながら、ゆるやかにしなやかにつながることを呼びかけます。趣旨に賛同する多くの有志の結集を期待します。


2015年6月20日 第567回大阪行動に辺野古より仲宗根船長がやって来た。@


2015年6月20日 第567回大阪行動に辺野古より仲宗根船長がやって来た。A

 ここでも、島ぐるみ会議「結成趣意文」と同じように、一つ一つの段落は何を主張しているのかを見ていきます。「設 立趣意書」は、「私たちは、『琉球の島々文化連絡会』」から始まる第1段落、「いま政治的局面では」から始まる第2段 落、「真の社会変革を目指すとき」から始まる第3段落、「私たちの島々は」から始まる第4段落、「私たちは、島々の文 化的発展」から始まる第5段落、「この連絡会は」から始まる第6段落という計6つのセンテンスから成り立っています。


2015年6月23日「慰霊の日」大阪駅前でチラシを配布する筆者

 第1段落は、文化連絡会は「琉球・沖縄文化プロジェクト<保全・回復・創造・継承>」を推進するために設立すると の宣言です。
 第2段落−原文では第1段落と第2段落の間は1行空いている−は、植民地差別を温存する同化政策で琉球・沖縄は分断さ れてきたと規定し、辺野古強行移設を琉球・沖縄の歴史・文化・自然の固有性を否定し破壊するものと認識して、重要な 文化問題であると位置付けます。
 第3段落では、2010年3月に国連人種差別撤廃委員会は「沖縄における不均衡な軍事基地の集中が住民の経済的、社会的、 文化的権利の享受を妨げている」と勧告しましたが、ここでいう「文化的権利」の領域を文化連絡会が担い、「社会的権 利」の領域を島ぐるみ会議が担って、この両輪の緊張と協働が自己決定権を獲得する上で重要なことは多くの国々が獲得 してきた歴史が示しているとします。
 第4段落では、従来からの沖縄島中心主義ではなく、琉球弧という拡がりの中で島々を位置付け、近代国家の権力者たち による政治的暴力や植民地差別に屈しなかった力の源泉は、誇り高い島々の文化的アイデンティティにあったとします。  第5段落では、島々の文化的発展の重要性に着目しています。アイデンティティ意識の高まり、自然環境への関心の増大 は、新たな文化的地平に到達しているとします。
 第6段落では、琉球弧の拡がりの中で島々の多様性を認め合いながら、ゆるやかにしなやかにつながろうと呼びかけてい ます。
 以上見てきたように「設立趣意書」は政治だけではなく、社会変革のためには文化の力が重要であること、とりわけ、言 語も名前も文化も奪われてきた地域(沖縄)にとってはそうであると宣言しています。政治と文化の両輪が植民地状態から 自己決定権の獲得を導くのです。


2015年7月18日 自宅に「アベ政治を許さない」を掲げる。

 次に、こうした視点について呼びかけ人は設立会でいかに発話しているかをみていきます。  高良鉄美は要旨次のような基調講演をおこないました。

  島々の文化力とは、自分たちが積み重ねてきたもの、哲学、芸術、科学、宗教、精神活動の中で出来てきたもので、 これが今の沖縄の状況でもっとも大きな役割を果たす。危機的状況にあるうちなーぐちを始めとする文化的収奪に加え、 沖縄は統治者の政策等を優先して本来あった文化が抑えられてしまう「文化的占領」の状況にある。辺野古はその典型例 だ。沖縄にはもともと基地はなかったのに、いつのまにか文化的占領の状況で基地ができた。   なぜ島々の文化力かというと、政治と文化がつながることが重要だ。政治だけで動いていると、ある時期的なところ を過ぎて、目標達成してしまうと続かないところがあるが、文化が政治を支えると、政治の原点というものが回っていく 。これが文化の力だと思う。


2015年9月15日 中央開発前抗議行動

 トークセッションで、安里進(沖縄県立博物館・美術館館長)は「辺野古基地建設による海や陸地の破壊は単なる自然 や文化財の破壊ではなく、沖縄のアイデンティティを作り上げてきた土台の破壊だ」、「現在は日本化の時代から琉球化 に向かっている。県民が沖縄のアイデンティティを強く主張し、辺野古の基地建設とリンクさせて考えるのは歴史的に自 然な流れで、大きな力の源泉だ」と言います。友知政樹(沖縄国際大学教授)は「文化的アイデンティティとは、琉球の 島々の人々の民族的アイデンティティ、先住民としてのアイデンティティであり、それが不屈の力の源泉となっている。 それが新たな文化的地平に到達したことを示す」と語ります。  従来沖縄における米軍基地問題、とりわけ辺野古新基地建設に反対する行動はすぐれて政治的課題として焦点化されて きました。選挙において常に争われてきたのは<経済=保守>対<平和=革新>という図式でした。  ところが、“イデオロギーよりアイデンティティ”と訴えて2014年11月に翁長知事が誕生したことともあいまって、政 治・社会領域のみならず、琉球の島々の民族的アイデンティティであり、不屈の力の源泉である文化の領域の重要性が語 られるのが、文化連絡会の誕生です。  否、島ぐるみ会議や文化連絡会の登場こそが翁長知事を生み出したと言えるのかも知れません。


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