☆西浜さんのプロフィール☆
1989年12月受洗。
2005年3月琉球大学大学院修士課程修了。
2009年3月大阪市立大学大学院博士課程単位取得退学。
現在、Stop!辺野古新基地建設!大阪アクション共同代表、日本平和学会、日本解放社会学会各会員。
日本キリスト教団大阪教区沖縄交流・連帯委員会書記


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第118 号(2016年10月)

地元2紙は、5・15「社説」で何を主張してきたのか。(その4)

 44年間の時代区分を、第T期:1972年から1982年まで、第U期:1983年から米兵による少女レイプ事件が発生した 1995年まで、第V期:1996年から2007年まで、第W期:2008年から今年2016年までとする。それに従って4回にわた って連載する、今回が最終回の第4回で、2008年から2016年までの第W期を扱う。

 第4回は、2008年から2016年までの第W期を取り扱う。施政権の日本への移管後もつねにヤマトゥに翻弄されてき たのが沖縄の歴史であるが、この第W期も凄まじい激動期である。記憶に新しいところだ。
 「国外移設、最低でも県外移設」を公約に掲げて2009年9月に政権が交代、民主党を中心とした鳩山政権が誕生し たが、それもつかぬ間、翌2010年5月、辺野古に回帰し鳩山退陣となった。その後に続く菅、野田政権は辺野古を封 印し、2012年10月には沖縄のすべて41市町村が反対しているにもかかわらず、オスプレイの配備が強行された(野 田首相は「配備自体はアメリカ政府としての基本的な方針で、それをどうこうしろという話ではない」と発言した )。
 2012年12月、再び自民党(と公明党)が政権に復活し、翌2013年1月、『建白書』(「一、オスプレイの配備を直 ちに撤回すること。及び今年七月までに配備されるとしている一二機の配備を中止すること。…二、米軍普天間基 地を閉鎖・撤去し、県内移設を断念すること。」)が日本政府に提出され、その後オール沖縄と呼ばれる政治勢力 が形づくられていくことになる。この『建白書』に対する安倍政権の回答は同年4月の「主権回復の日」式典であっ た。
 一方、仲井真知事が2013年12月に埋め立てを承認したことに対して、辺野古新基地建設に反対する沖縄の民意は 、2014年に行われた名護市長選、県知事選、衆議院選ではっきりと示された。にもかかわらず安倍政権は辺野古・ 高江の工事を強行する。それに対し戦後最大の基地反対闘争が取り組まれている。


U 第W期の「社説」
1.2008年5月15日
 「『5・15体制』克服の道筋を示す時だ」と題した『タイムス』は、沖縄には「時代を超え地下水脈のように『 平和』への思い、『自治・自立』を求める渇望」があるとして、「自立を模索する動きは復帰後も途絶えることな く続」いているとする。それは「自治労の沖縄特別県制構想、…故玉野井芳郎さんらがまとめた沖縄自治憲章、大 田県政時代に打ち出された国際都市形成構想、沖縄自治研究会の沖縄自治州基本法試案」などに見られ、最近の議 論の特徴は「復帰の際に形づくられ今も続く『5・15体制』を根本から見直し、『ポスト5・15体制』をどのように 構想するかという問題意識」であると言う。
 そして「『5・15体制』ともいうべき沖縄振興のための現行の仕組みは、…高率補助に基づく公共事業主体の経 済振興は自治体の財政規律を弱め、国依存の体質をつくり上げてしま」い、「基地の安定的な維持のために沖縄 振興策が活用されてきたのは紛れもない事実である」とする。
 最後に「自治構想を見果てぬ夢に終わらせないために『構想力』と『気概』が」「今、求められている」とま とめている。
 「平和な県づくり今後も/県民の自覚も問われている」と題した『新報』は、「県民生活に基地が重くのしか かる現実が…あ」り、「基地あるがゆえの事件、事故は後をたたず」、その一例として「今年二月には米兵が女 子中学生を暴行した事件が発生した」と述べる。そして「米兵すべてに規範意識を持たせることは不可能なこと」 と言う。そこには「日米安保体制の方が、少女や県民の人権よりも大切ということが政府の考えの根底にあ」り、 「すべては、米軍基地の自由使用が復帰と同時に日本政府のお墨付きを得たことに起因する」と断定する。

2.2009年5月15日
 「復帰37年/県民の手で将来設計を」と題した『タイムス』は、「政権交代が現実味を増してき」ており、「 今年は日本の針路を左右する大きな節目の年になるだろう」と予測する。その上で「基地受け入れと振興策をか らめた『アメとムチ』」という「国の基地政策は代わり映えが」せず、「国もそろそろ変わるべきだし、変わら なければならない」と述べる。
 「本土復帰37年/自立への道筋を見直そう/発展の潜在力持つ跡利用」と題した『新報』は、「発展したのは 国に頼ったところよりもむしろ、自助努力がなされた分野だ。沖縄が無力感にとらわれる必要はない。自らの秘 めた力を自覚したい」とし、「対照的に、復帰後も変わらないものは基地の重圧だ。事件・事故が人権を侵害す るだけでなく、県民が使えない広大な存在が他の民間地の発展も阻害している」と書く。


3.2010年5月15日
 「復帰38年/沖縄の終わらない戦後」と題した『タイムス』は、「戦後、米国が沖縄を戦略拠点として位置づ けただけでなく、日本側も、米軍の沖縄駐留を強く希望した」として、「本土から沖縄への移駐によって本土は 負担軽減が進み、そのしわ寄せで沖縄は軍事要塞と化した」と喝破する。
 「70年前後の返還交渉の過程でも日本側は、…沖縄への基地封じ込めを主張した事実がある」と記して、最後 に「いつまでも『終わりのない戦後』を沖縄県民に負わせてはいけない」とまとめている。
 「本土復帰38年/未来拓く自助努力を/脱基地、自立への志強く」と題した『新報』は、「国外・県外移設を 求めた大規模な県民大会からわずか9日後」に「鳩山首相は公約を覆し、県内移設を表明した」と批判し、「『構 造的差別』を断ち切る決断から逃げた為政者の姿を目の当たりにした」と述べるように、政権交代とその後の失 望、そして「構造的差別」を問題としている。
 「主権者を欺いてきた」「密約」が「今に続く対米従属と基地の過重負担の源流と言える」と記す。さらに県 民の意思決定について、「『沖縄問題』に横たわるのは、県民が蚊帳の外に置かれ、意思決定の主体になり得な かった構図である」として、「主権者として沖縄の在り方を定める意思決定に積極的に参画する決意を」「共有 したい」と述べた上で、「沖縄の潜在力は高い。脱基地、自立への強い志を胸に未来を拓く営みに邁進したい」 とまとめている。

4.2011年5月15日
 「復帰39年/歩みをつなげるために」と題した『タイムス』は、沖縄の大衆運動について「無権利状態から県 民は非暴力で大衆運動を立ち上げ、自由と権利をつかみ取ってきた」とし、「その歩みは誇れるものだ。いまも 沖縄問題は大衆性を失っていない」と述べる。そして、最後に「今日的な視点で復帰を再認識し、沖縄の未来を 考える日にしたい」とまとめている。
 「きょう復帰39年/今も続く基地の集中/差別の解消は国の責務だ」と題した『新報』は、「安保の負担を沖 縄だけに押し付ける『差別の構図』は全く変わっていない」とし、「憲法の恩恵を受けた本土と異なり、自治権 などさまざまな権利を制限され、戦後も苦難の道を余儀なくされたのが沖縄だ」と述べる。さらに「米軍基地は 事件・事故や騒音にとどまらず、人権を脅かすさまざまな害悪をまき散らす。差別の解消は国の責務だ」とする 。
 安保の負担を沖縄だけに押し付けるのは「差別の構図」だと認定し、差別の解消は国の責務だと断じる。部落 差別の解消は国の責務だとして部落解放同盟が国民的な運動を展開し「同対審答申」を引きだしたことを彷彿と させる論調である。
 海兵隊の沖縄への移駐に関しても「岐阜、山梨に駐留していた海兵隊・第3海兵師団は、基地反対運動が激しく なったため50年代に沖縄に移ってきた 。沖縄に移駐したのは、米軍が支配する島だったからだ。駐留の意義など 後から取って付けた理由である」と現在、広く人口に膾炙してきた論理展開をおこなっている。

5.2012年5月15日
 40年の節目の社説である。
 「普天間を解決する時だ」と題した『タイムス』は、「基地問題をめぐる過重負担の構図はこの40年間、ほ とんど何も変わっていない」とし、その事例として「本土では約59%が返還されたのに」沖縄で「復帰から20 09年3月末までに返還された米軍基地は、面積にして約19%(『新報』5月15日付によると、約5990ヘクタール )にとどまる」ことを挙げ、「沖縄の負担軽減は遅々として進まない」と記す。
 そして重要な変化として、「沖縄の基地が減らないのは本土による沖縄差別だと思うかとの問いに対し、『 その通り』だと答えた人が50%に上った」と県民意識を取り上げる。「『基地の現状は不公平だ』『本土の人 たちは沖縄をあまり理解していない』−そう考える人たちが県内で急速に増えている」とも。
 「米軍普天間飛行場の辺野古移設を盛り込んだ06年の日米合意は、死文化した。辺野古移設計画を断念し、 早急に日米交渉を始めるべきである。普天間の固定化は許されない」と主張する。
 最後に「沖縄の民意は変わった、基地依存・財政依存からの脱却を目指した『沖縄21世紀ビジョン』の将来 像は、多くの県民に共有されており、これからの沖縄振興は、この自立の動きを後押しするものでなければな らない」とまとめている。
 「復帰40年/自立の気概持とう/国の空洞化、無策を憂う」と題した『新報』は、「オスプレイの配備」を 「沖縄差別ではないのか」と問うている。前年に引き続いて差別をキーワードとしている。
 そして、「沖縄21世紀ビジョンも過密な米軍基地を『沖縄振興を進める上で大きな障害』とし、沖縄経済の 阻害要因と位置付け」、「『基地の整理縮小と跡地利用』と雇用創出を並行して進めなければ、沖縄の自立的 発展はおぼつかない」と述べている。

6.2013年5月15日
 3年3ヶ月にわたる民主党政権に変わり、自公政権に戻ってから初の「社説」である。
 「愚直に道理を訴えよう」と題した『タイムス』は、「基地問題」が「復帰の際に解決すべきだった重要な 課題」であったのに、「未解決のまま残り、それが足かせになって」いると述べ、それは「『基地の自由使用 』や『基地に対する排他的管理権』のこと」であるとする。
 その上で、アメリカにおける変化を取り上げている。5月1日付「米議会調査局…日米関係の報告書」は、「 『日本が米国による安全保障の利益を得ている間、沖縄人は不相応な重荷に耐えている』と指摘」し、4月6日 付「ニューヨーク・タイムズも『日米両政府は沖縄の懸念に敏感になるべきだ』」と伝え、また「米国のシン クタンクの研究員からは辺野古移設に代わる選択肢が具体的に提示されている」と説く。
 そして「沖縄の中だけで『負担軽減』と『抑止力の維持・向上』を実現しようとするのは、そもそも大きな 矛盾である。どだい無理な話」で、「普天間の県外移設を実現した場合でも、多くの基地と基地負担が沖縄に 残ることを忘れてはならない」とまとめる。
 「本土復帰41年/自己決定権の尊重を/揺るがぬ普天間閉鎖の民意」と題した『新報』は、「オスプレイの 普天間飛行場への配備が強行されたから」「『復帰してよかった』と心から喜べない」。「県民が『屈辱の日 』として語り継いで来た4 月28日に、政府が『主権回復の日』式典を開催し、祝ったから」「今年の復帰の節 目は、いつになく重苦しい」と語る。
 そして、「日米両政府は沖縄を安全保障政策の踏み台ととらえる惰性から脱却し、普天間の閉鎖・撤去へ踏 み出すべきだ。沖縄の民意、自己決定権を尊重するよう強く求めたい」と述べる。また「国の沖縄振興策は実 を結んだとは言い難」く、「沖縄振興策は失策続き」と断罪する。

7.2014年5月15日
 施政権が日本に移管されたこの節目の日、安倍政権は憲法解釈を変更し集団的自衛権行使を容認する旨を表 明した。それに対し、「歴史的岐路/選択誤るな」と題した『タイムス』も、「日本復帰42年/民意分断の修 復を/『捨て石』から平和の要石へ」と題した『新報』も、ともに深い憂慮を示した。『タイムス』は「集団 的自衛権の行使容認は日本の安保政策の一大転換となり、東アジアに一層の緊張をもたらす恐れがある。/沖 縄を再び戦場にしてはならない。…これがすべてに優先する課題である」と述べ、『新報』は「42年の節目を …とても祝う気分にはなれない。/集団的自衛権行使容認…戦後日本の平和主義の大転換を図る…日が、沖縄 の復帰の日と重なるのは非常に皮肉だ。/集団的自衛権行使容認…は、沖縄が再び戦場にならないかという恐 怖を呼び起こす」と記す。
 辺野古新基地建設をめぐっては、前年2013年12月に仲井真知事が埋め立てを承認した、その直後の「社説」 である。『タイムス』は「米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向け、日を追うごとに防衛省の強硬姿勢が 目立ってきた。まるで牙をむいて襲いかかっているかのようだ」との状況認識に立って、「今、進行しつつあ るのは、普天間の県内移設を前提にした米軍基地の拠点集約化と日米の軍事一体化である」と本質を衝く論評 を述べる。そして結語で、「辺野古移設計画をいったん凍結し、日中の関係改善に向けた取り組みと移設計画 の見直しを同時に進めるべきだ」と主張する。
 『新報』は、それを俯瞰して「沖縄は『軍事植民地状態』とも指摘されている。民意を分断し植民地統治に 協力する者を増長させることが、支配する側の常套手段である…。/基地負担と引き替えの『アメとムチ』の 復帰後の沖縄振興策体制が、いかに沖縄の社会を破壊したか。その罪は大きい」として、「自己決定権を確立 するしかない。その際大切なのは『捨て石』ではなく、沖縄を平和の『要石』とすることだ」と結論付けてい る。
 この年の秋に実施される知事選挙に関して『新報』の「識者談話」欄で、我部政明・琉球大学教授は「今年 、2014年は、新しい時代が始まる変わり目、転機になるのではないだろうか。…秋には知事選がある。/今後 20年の方向性を予想させるだろう」と述べている。

8.2015年5月15日
 2期8年の仲井真県政に変わり翁長知事が就任してから初の「社説」である。
 「日本復帰43年/圧政はね返す正念場/将来世代に責任果たそう」と題した『新報』は、「将来も米軍基地 を県内に残すのか。沖縄にとって今が正念場である」から解き明かし、「県民が復帰に求めたことは国に手段 として利用されることを拒否し、基地の抑圧から解放され、人権が完全に保障されることだった」が、「現状 は」、「国は日米安保を重視する手段として沖縄を相変わらず利用し、県民は基地の重圧にあえいでいる。新 基地建設は今後も沖縄を利用し続けるとの宣言にほかならない」と述べ、「新基地建設は安倍政権の沖縄への 圧政の表れであり、許すことはできない」、「安倍政権は新基地建設を断念すべきだが、辺野古移設が『唯一 の解決策』と強弁し続けている。思考停止に陥った安倍政権に沖縄の将来を委ねてはならない」と、断罪する かのような激烈な文章で締め括っている。

9.2016年5月15日
 2015年になって、『タイムス』はヤマトゥでも大きな問題として浮上してきた子どもの貧困問題を取り上げ るところとなった。それは2016年の「社説」でも引き続いて述べられている。事の性質上2015年と2016年(こ の年は5月16日付)を続けて記載する。
 2015年は「復帰の日に考える/『子ども』を振興の柱に」と題して、「基地行政に忙殺されるあまり、子ど もや暮らしの問題に十分向き合えないとしたら、これもまた基地あるゆえの問題である」とし、「貧困率は沖 縄が23.9%でワースト。2番目の大阪と4ポイント以上も開きがあった」と述べる。そして「沖縄の貧困の根を たどっていくと、沖縄戦による荒廃と米軍統治下における法制度の空白や不備に行き着く。その二重苦を今も 引きずる」と記す。「子どもへの視点が乏しかった沖縄振興策」に「反省」を促す「とともに、例え貧困であ っても未来に希望を持ち健やかに育つよう、子どもに特化した『未来振興計画』が必要だ」とまとめている。
 2016年は「復帰44年/格差と貧困/世代間連鎖断ち切ろう」と題して、「昨年から今年にかけて県民の関心 が急速に高まっているのは、…子どもたちの貧困である」とし、「3人に1人が貧困状態」で、「高齢者の生活 保護受給割合が全国で2番目に高いのは、米軍統治下にあった影響で年金制度への加入が遅れたことと深く関 係している」と、2015年と同様、「沖縄戦による荒廃と米軍統治下における法制度の空白や不備」や「米軍統 治下にあった影響で年金制度への加入が遅れたこと」をその原因として取りあげる。
 そして、「沖縄は貧富の差を示す『ジニ係数』が全国一高」く、「世代間連鎖が進む貧困問題を、21世紀ビ ジョン基本計画後期の優先課題に位置付けるべきだ」と結論付けている。
 一方、「復帰44年/辺野古では/脅かされる自治と人権」と題した『タイムス』は、「沖縄で『憲法体系』 と『安保体系』のきしみが耐え難いほどひどくなったのは、軍政下に米軍によって一方的に建設された普天間 飛行場を、民意に反して強引に県内に移設しようとするからだ」と述べ、「沖縄の主張の最大公約数は」、「 憲法が保障する人権や地方自治を本土並みに享受する。安保が必要だと言うなら全国で負担を分かち合う」と 言う「実に慎ましやかなものだ」と述べる。その上に立って、「米軍基地を沖縄に押しつけるだけでは、問題 は何も解決しない」と主張する。
 他方、「きょう復帰44年/『自治』県民の手に/沖縄の進路、自ら決める」と題した『新報』は、「米軍基 地の重圧は変わらず、米軍関係者による事件・事故も絶えない。憲法が保障する『平和的生存権』が沖縄では 軽んじられている」とし、「辺野古での新基地建設といった沖縄の主体性を無視した政府の強権的な姿勢も目 立つ」と述べる。
 そして、この日を「改めて沖縄の進路は自ら決める『自立の日』として足元を見詰め直したい」と述べて、 繰り返し引用される「屋良建議書」を引き合いに出す。「屋良建議書」とは「(1)政府の対策は県民福祉を第 一義(2)明治以来、自治が否定された歴史から地方自治は特に尊重(3)何よりも戦争を否定し平和を希求す る(4)平和憲法下の人権回復(5)県民主体の経済開発−を日本政府に求めた」ものだが、この「要求は現代 にも共通する。逆に言えば『当然の願望』がいまだ実現していない」とし、「辺野古の新基地建設」を例に出 して、「選挙で示された新基地建設に反対する民意を政府は平然と無視し、地方自治を侵害し」、「国は事あ るごとに『辺野古は唯一の解決策』と繰り返す。沖縄の自治、民意、自己決定権といった当然の権利に対する 敬意が全く見えない」と強く批判する。
 さらに、「本土では2014年以降に345ヘクタールの米軍専用施設が返還され」、「結果的に在日米軍専用施設 に占める沖縄の負担は14年時点の73.8%から74.46%に微増した」。「見せ掛けだけの『負担軽減』はもうやめ てもらいたい」と記す。
 「44年間の経験から明らかなのは、米軍基地は経済の阻害要因でしかなく、返還地利用によって沖縄は飛躍 的に発展したことだ」との見解を述べ、「安倍政権は集団的自衛権の行使容認をはじめ、憲法を骨抜きにして いる。民意を顧みない姿勢は沖縄への強権的態度と通じる。こうした時代だからこそ、屋良建議書が重視した 『自治』を県民の手に取り戻すきっかけの日としたい」との決意を最後に述べている。

V 第W期の小括
 第W期を迎えて、『タイムス』も『新報』も社の主張として、普天間基地の閉鎖・撤去と辺野古新基地建設 反対を明確に打ち出すことになる。それは社是と呼んでも過言ではないであろう。「辺野古移設計画を断念し 、…普天間の固定化は許されない」(2012年『タイムス』)、「普天間の閉鎖・撤去へ踏み出すべきだ」(20 13年『新報』)、「辺野古移設計画をいったん凍結」(2014年『タイムス』)、「新基地建設は…許すことは できない」(2015年『新報』)、「選挙で示された新基地建設に反対する民意を政府は平然と無視し」(2016 年『新報』)という具合である。
 基地の押しつけを差別として捉える(1987年『タイムス』、『新報』)観点は、第U期から提起されたが、 第W期でも「安保の負担を沖縄だけに押し付ける『差別の構造』」(2011年『新報』)、「オスプレイの配備 」は「沖縄差別」(2013年『新報』)と語られ、「構造的差別」との文言が登場(2010年『新報』)し、「沖 縄は『軍事植民地状態』」(2014年『新報』)だとも指摘する。
 また、「過密な米軍基地」は「沖縄経済の阻害要因」(2012年『新報』)、「米軍基地は経済の阻害要因」 (2016年『新報』)との観点が提示され、沖縄への米軍基地の集中に関しては、「日本側も、米軍の沖縄駐留 を強く希望し」、「本土から沖縄への移駐によって本土は負担軽減が進み、そのしわ寄せで沖縄は軍事要塞と 化した」、「日本」は「沖縄への基地封じ込めを主張した」(2010年『タイムス』)、「岐阜、山梨に駐留し ていた海兵隊・第3海兵師団は、基地反対運動が激しくなったため50年代に沖縄に移ってきた。沖縄に移駐し たのは、米軍が支配する島だったからだ。駐留の意義など後から取って付けた理由である」(2011年『新報』 )と解明する。
 このような状況に対して、この期もまた「『自治・自立』を求める渇望」(2008年『タイムス』)、「自立 への道筋を」(2009年『新報』)、「自立への強い志を」(2010年『新報』)、「自立の気概持とう」(2012 年『新報』)、「自己決定権の尊重を」(2013年『新報』)、「自己決定権を確立するしかない」(2014年『 新報』)、「沖縄の進路は自ら決める」(2016年『新報』)と、自己決定権を強く主張している。
 2014年に安倍政権が憲法解釈を変更し集団的自衛権行使を容認する旨を表明したことに対して2紙とも、「沖 縄を再び戦場にしてはならない。…これがすべてに優先する課題である」(『タイムス』)、「集団的自衛権 行使容認…は、沖縄が再び戦場にならないかという恐怖を呼び起こす」(『新報』)と述べるように強い危機 感を表明している。
 さらに、『タイムス』が2015年と2016年に子どもの貧困問題を取り上げている。現在も沖縄社会は、沖縄戦 とその後の米軍基地が大きな問題として継続しているが、それのみならず子どもの貧困、年金制度加入の遅れ による高率な高齢者の生活保護受給割合(全国2位)、ともにワーストの貧困率(23.9%)と貧富の差を示す 『ジニ係数』、まだ六千柱余が山野に眠っているという沖縄戦戦没者の遺骨収集、戦時中のマラリア犠牲者の 補償など、いわば生活の総領域において今もなお沖縄戦が深く関わっている。
 それ故、沖縄に「戦後」はまだ訪れていない。「沖縄は、戦後ゼロ年と戦前ゼロ年が連続しているのであり、 今も沖縄にはヤマトゥで言うところの『戦後』は実在せず、常に『戦前』が待ち構えている」(筆者論文「沖 縄戦70年―自己決定権を希求する琉球と無恥なヤマトゥ」『共生社会研究 第11号』所収)のである。

 
 


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